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仙台高等裁判所 昭和29年(ネ)314号 判決

控訴人(原告) 飯淵和三郎

被控訴人(被告) 宮城県知事

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。

被控訴人が宮城県柴田郡船岡町大字船岡字町の口五番の二宅地二百三十一坪四合三勺について昭和二十四年七月十日附買収令書を控訴人に交付してした買収処分を取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。(証拠省略)

理由

本件宅地が古くから控訴人の所有でこれを訴外佐藤吉三郎に賃貸してきたこと、訴外船岡町農地委員会が右佐藤吉三郎の申請に基き昭和二十四年六月二日右宅地を旧自作農創設特別措置法第十五条の規定に基き買収計画を定め、同年七月二日訴外宮城県農地委員会がこれを承認し、次で被控訴人が右買収計画に基き同年七月十日附買収令書を昭和二十五年十二月八日控訴人に交付してその買収処分をしたこと及び右宅地は既に船岡町の都市計画事業としての区劃整理が行われた地域内にあることはいずれも当事者間に争がない。そこで成立に争のない甲第二、三、四号証、第六乃至第十二号証、乙第二号証の二、原審証人気仙竹三郎、中畑弘、笠原已之三、佐藤吉三郎、当審証人遠藤伝、原審及び当審証人飯渕惣喜寿、原審及び当審における控訴人本人の各供述並びに原審における検証の結果を綜合すると、前記買収申請人である佐藤吉三郎は今次の農地解放により田畑合計六反五畝余歩の売渡を受けた専業農家で、これを含め田畑約八反八畝歩を耕作し、本件宅地を昭和三年頃以来控訴人から賃借してきたが、該宅地と右売渡を受けた農地との距離は約三町乃至十町内であり宅地内に作業場、物置等を有し空地も脱穀等の際使用してその営農に右宅地を利用していること、右宅地は船岡町市街地の略南端にあつて右買収処分当時附近に田畑も多かつたのであるが、これより先昭和十三年頃附近に旧海軍火薬廠が設置されて以来右宅地近辺も次第に住宅、店舖が立ちはじめ漸く住宅地帯に移行しようとする様相を呈してき、船岡町においても都市計画事業に基く区劃整理を実施し、昭和二十二年十二月宮城県知事に対し旧自作農創設特別措置法第五条第四号の規定による農地買収除外を申請した結果昭和二十五年二月四日本件宅地のある字西町の口その他敷地域につき右除外の指定のあつたこと、本件宅地(字町の口五番の二)は区劃整理の結果字西町の口一番と改められその位置は右火薬廠正門に通ずる大通に面しており、右大通は右火薬廠の廃止された後もなお船岡町の主たる繁華街となることが区劃整理当時から予想されていること、右宅地は前記のように船岡町市街地の略南端にあるが前示の都市計画によれば更にその東方及び南方にも市街地の延長することが予定され区劃整理後同方面も次第に店舖、住宅の建設が増加する傾向にあること、以上の事実を認定することができる。原審証人笠原已之三の証言中右認定に反する部分は採用し難く、他に該認定を左右するに足る証拠はない。以上の事実を綜合して考察すると、本件宅地は前記佐藤吉三郎の営農上利便であることは認められるけれども、その位置、環境等からして右営農のためこれを買収することは相当でないと認むべく、前示の買収処分は違法として取消を免れないものといわなければならない。右の買収を相当と認めた原判決は失当として取消を免れない。

よつて民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村木達夫 佐々木次雄 畠沢喜一)

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